産経新聞が不思議な記事を載せた。
3月16日付の「皇位継承の議論 動く」という記事だ。そこでは、3月18日に開催される自民党の皇位継承問題を
巡る懇談会で話し合われる内容を、予想していた。「自民は男系男子の復帰(正しくは皇籍取得ー引用者)案を
より重視しており、旧皇族に連なる人々が女性皇族と結婚したり、
養子として旧秩父宮家や旧高松宮家、旧桂宮家を継いだり
した場合の課題などを検討するとみられる」と。ここで、旧宮家系男性子孫について「旧皇族“に連なる”人々」
と書いているのは興味深い。
何故なら、男系限定論者の用語法ではしばしば、かつて皇籍に
あられた元皇族=旧皇族と、生まれた時から国民だった
その子孫を“敢えて”混同して「旧皇族」と呼称して、
平然としているからだ。産経新聞もこれまでは、メディアとしては考えられない偏向ぶりながら、
そのような(印象操作を狙った)間違った用語法を、
そのまま無批判に受け入れていたはずだ。
それを反省して訂正したのだろうか。しかし、かつて一度も皇籍になかった事実を直視するならば、
「復帰」という用語も一緒に訂正しないとツジツマが合わなくなる。
だが、そこには注意が行き届いていないようだ。それはともかく、この記事を読んだ人達は驚いたのではないか。
何しろ、女性皇族(内親王·女王)のご結婚相手を政治家が
指図(!)するかのような構図を浮かび上がらせる、
非礼·不敬な記事になっているからだ。
自民党の懇談会では、露骨な政略結婚の強制可能性すら
自明視したプランが公然と「検討」されるのか、と。更に、既に廃絶して久しい旧秩父宮家などは、
当然ながら養子を迎える「養親」が不在。
なのに、本気で養子縁組が可能だと考えているのか。
そもそも“養子縁組”という制度を理解できているのか。有識者会議報告書には「皇族が養子を迎えることを可能とし…」(11ページ)
と書いてある。
この「皇族」は当たり前だが“ご存命の方”を前提としている。
自民党の知的レベルに恐怖心すら抱かせる記事だった。ところが、18日の懇談会の内容を伝える同じ産経新聞3月19日付の
「『女性宮家』文言用いず」という記事を見ると、
上記のような非常識極まるプランが検討されたことへの言及は、
全くない。「政府の有識者会議が令和3年に取りまとめた報告書のうち、
内親王·女王が婚姻後も皇族の身分を保持できる案について議論した」「出席者から有識者会議の報告書を高く評価する声が相次いだ」
とすると、先の記事は誤報だったのか。
そもそも旧宮家関係のプランはこの日のテーマにすらなっていなかった。
しかし男系派の中には、先のような常軌を逸したプランを抱く
政治家も、実際にいるのだろう。
その事実を暴露してくれた産経新聞の功績は認めたい。19日付の記事にも呆れた一文があった。
「婚姻後の女性皇族が皇籍と戸籍両方を持つ案もあるが、
いずれも法制面など課題は少なくない」と。
先ず、この記事では皇位継承問題のキーワードである「皇籍」
の意味が理解できていない。
「皇籍」とは皇族としての“身分”を意味する。
だからその対語は、帝国憲法·旧皇室典範のもとでは「臣籍」。
現在はそれに該当する語はないが(国籍を意味する「民籍」という
語は少しズレる)、「国民としての身分」という概念が対応する。一方、「戸籍」は国民の氏名·生年月日などを記し、
出生から死亡までの親族関係を登録·公証する“公文書”だ。
これに対応するのは、「皇統譜」。
皇籍と戸籍は、「籍」という漢字がたまたま共通していても、
全く別の範疇の言葉だ。
こんな説明をした自民党の政治家又は関係者も、
それを鵜呑みにして記事にした記者も、無知の程度がヒド過ぎる。しかも、記事の中身に踏み込むと、皇室と国民の
“厳格な区別”という自覚が皆無なのに驚く。
婚姻後の内親王·女王が皇族の身分と国民の身分の両方を兼ね備え、
皇統譜と戸籍の両方に登録されるというプラン「もある」
というのは、果たして正気の話なのか。
その方には憲法の適用はどうなるか。皇室の方々には第1章が“優先”的に適用される一方、
国民には第3章が“全面”的に適用される。
これは二者択一しかあり得ない。
その方の場合はどのようになるのか。
恐らく全く考えていないだろう。「法制面など課題は少なくない」という以前の、
荒唐無稽な論外のプランと言う他ない。
それを真面目にメモして、そのまま記事にまでする記者が
いるかと思うと、メディアの底なしの劣化が悲しくなる。先の記事と合わせて、産経新聞の取材源になっている
政治家又は関係者は、かなり怪しげだ。
どちらの記事にも署名が見える内藤慎二記者も以前、
ある調査でヒットした名前だったのを思い出す。男系派国会議員の無知さについては先日、ある議員の集まりで、
さも皇室への敬愛の念を抱いているのかのようなそ振りを
見せながら、悠仁「内親王」とか悠仁「陛下」とか
連発していたのを目の前に見て、愕然とした。追記
①「女性自身」(3月19日発売❲4月2日号❳)にコメントが掲載された。
②今月のプレジデントオンライン「高森明勅の皇室ウォッチ」は
3月22日に公開予定。▶「女性自身」記事
https://jisin.jp/koushitsu/2305024/?rf=2【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/
BLOGブログ